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徹底レビュー『図説オランダの歴史』 美術ファンも歴史を知りたいのです!

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オランダ

レンブラント、フェルメール、フランス・ハルスらを輩出したオランダは、西洋美術ファンにとってはおなじみの美術大国ですね。

一方で、国土はそう広くなく、ハプスブルクのような頻繁に取り上げられる家系の生地でもなく、その歴史は知っているようで知らない“盲点”と言えるかもしれません。

でもオランダ史、面白いのですよ。

17世紀の経済発展はもちろんのこと。
国土開拓の逞しさや植民地支配の暗い歴史、政治体制の遷移などなどなど・・・
他のヨーロッパ諸国とは違った興味深いトピックがたくさんあるのです。

そんな魅力あふれるオランダ史の全体像を掴みたい!という美術ファンにおすすめなのがこちら。
『図説 オランダの歴史』です。

入門者にとって分かりやすく、ボリュームもちょうどよく、美術鑑賞をもっと楽しくしてくれる本書について、正直かつ徹底的にご紹介しますね。

向いている人、向かない人

どれほどの良書でも、向いている人と向いていない人が存在しますよね。

まずはどんな人に向いているのか、どんな人には向いていないのかをお伝えします。

向いている人

  • オランダ史の全体像を把握したい
  • 図版もそれなりにあった方がよい
  • オランダ史はそこまで詳しくない

向いていない人

  • オランダの美術を中心に知りたい
  • 既にかなりオランダ史に詳しい
  • 図版は最小限で構わないから、解説文が多い方がよい

オランダ史の入門書として丁寧に分かりやすく解説されていますが、マニアックな論点を求めている方には合わないかな、というところです。

概要・構成

では次に、本書の全体的な流れをご紹介します。

全体としては、古代ローマの時代から21世紀の現在にかけて、時系列に沿って解説されています。
全9章と5本のコラム、巻末の略年表といった資料が主な構成要素です。

特徴的なのが第1章と第6章

第1章ではオランダ人がいかにして“水”と生きてきたのかに、第6章ではオランダが経済的に最も繁栄した17世紀に焦点を当てて特集しています。

この2章が本書の大きな魅力のひとつなので、後ほど詳しくご紹介しますね。

ここがよかった

それではいよいよ、本命のよかった点について3点ご紹介します。

  • 図版と解説文の分かりやすさ
  • 第1章と第6章の特集
  • 美術鑑賞を面白くする知識

図版と解説文の分かりやすさ

図版と解説文の分かりやすさが入門者向けになっているかどうかは重要なポイントですが、本書は“基礎的な事項をちゃんと理解したい入門者”にちょうどよいくらいになっています。

図版が大きく数も多めながらも解説文も充実しているので、入門者が物足りなく感じることはないでしょう。
読み応えがしっかりあって、要点をきちんと理解できるはずです。

かと言って、読み切れないほどボリュームたっぷりでもないので、特段の粘り強さがなくとも最後までたどり着けるでしょう。

解説文にも難解なところはなく、予備知識が無くてもすらすらと自然に読み進められます。
「ちょっとなに言っているか分かんない・・・」という悲壮な事態には陥らないのではと思います。

逆に言うと、既に全体像を詳しく知っているのであれば物足りないかもしれませんが。

第1章と第6章の特集

基本的には歴史の流れに沿って解説が進められていますが、第1章と第6章は例外です。

この2章はそれぞれ「水との共生」と「17世紀黄金期」に関して特集していて、これがとにかく面白い。

まずは第1章の「水」について。

国土の26%が海抜0m以下にあるオランダは、水気の多い土地の利用に大変苦慮し、度重なる水害にも悩まされてきました。

一方で、低地の開墾・干拓に励み、戦争では水を利用した防衛作戦も発動させるなど、土地の特性を上手に活用してきた歴史も持っています。

水との共生の歴史はオランダ人が誇る知恵と努力の賜物であり、同時に社会・経済構造を決める大きな要因でもありました。

オランダの面白さは水にあり、というわけです。

オランダ
アムステルダム近郊のザーンセスカンス
風車のある風景画
いかにもオランダらしい
筆者撮影

そして第6章の「黄金期」

17世紀、オランダには極めて強靱な経済力が備わっていました。

その力強さは、経済学者ウォーラーステインが世界で最初のヘゲモニー国家(圧倒的な経済力によって他国の優位に立った国家)としたことからも理解できます。

ヘゲモニー国家は歴史上、オランダ、イギリス、アメリカのみ。
史上稀に見る経済大国だったのですね。

確かにオランダは地理的にヨーロッパの中央にありますが、特段大きな国ではありません。
そんな小国が経済的に発展していく過程を知ることは、オランダ史探訪の大きな醍醐味です。

大国相手に戦争しつつ海を越えて世界へ飛躍するオランダのダイナミズムを、ぜひ堪能してみてください。

美術鑑賞を面白くする知識

レンブラントやフェルメール、ゴッホも生んだオランダは、西洋美術にとって欠くことのできない重要な存在です。

とりわけ17世紀の黄金期には、裕福な市民層や宗教改革の影響を受け、それまでの教会・王侯を顧客とした美術とは異なる発展を遂げました。

静物画が好まれたり、市民の日常に近しい場面が描かれたのは特徴のひとつですね。

上記については基礎的な美術書にも書いてあることですが、さすがに歴史書を1冊読んだ後では、作品から思い浮かんでくる事柄が幅広くなるのを実感します。

例えばフェルメール作『手紙を読む女』

フェルメール 青衣の女
『青衣の女』
ヨハネス・フェルメール
1663~64年 アムステルダム国立美術館 所蔵 46.6×39.1cm

手紙を読む市民の姿からはオランダの識字率の高さが伺えますね。

この高い識字率は新聞の発達につながり、ひいては欧州ジャーナリズムの中心地としての発展に大いに貢献します。
オランダ語の他にもフランス語の新聞も発行され、欧州各国が最新の情報を手に入れようと目を光らせる場となっていったのです。

更に言うと、オランダのジャーナリズムの発展は江戸幕府にとっても無関係ではありません。
ヨーロッパ唯一の貿易相手国がオランダだった時代には、情報通のオランダ人こそが世界情勢を伝えてくれる窓口でした。

このような歴史的背景を知っていると、フェルメールの本作も違う視点からも見られるようになります。
日々の生活で文字を活用していた市民たちが、諸外国が熱い視線を送ったオランダジャーナリズムの礎だったのだろうかと。

このような歴史的背景を知っていると、フェルメールの本作も違う視点からも見られるようになります。
日々の生活で文字を活用していた市民たちが、諸外国が熱い視線を送ったオランダジャーナリズムの礎だったのだろうかと。

1枚の絵画からモワモワと想像を膨らませられたら面白いな、という方には本書は合うことでしょう。

ここはイマイチ

あまりに褒めてばかりでは信用してもらえなくなりそうなので、本当に良書ですよ!と信じてもらうためにも、イマイチだった点も正直に挙げた方がいいかなとは思うのですが・・・
いつも苦戦しております。

ただ今回はありました、イマイチな点。
巻末資料の地図ですね。

巻末にオランダとその周辺国の一部分の地図が資料として掲載されているのですが、白黒でちょっと分かりづらいのです。

あの地域は川が多く、国境も多く、州境もあり、更には幹線道路も記載してくれているために線が輻輳しています。
情報量が多いのはありがたい一方、ライン川を辿るのも結構難しいくらい見づらくなっています。

とはいえ読むのをためらう理由には全然ならないので、事前にこのエリアのGoogleマップでも準備しておいて、適宜参照しながら読めばいいのかなと思います。

出版社の方、もし可能であれば、次回改定の際はこの1ページはカラーでできないでしょうか!
めっちゃいい本なのでもったいないです!!!

以上、イマイチな点でした。

書籍概要

改訂新版 図説オランダの歴史
佐藤弘幸 著
株式会社河出書房新社
2012年4月30日初版発行、2019年5月30日改訂新版初版発行

ではでは、最後までご覧いただきありがとうございました。

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