書籍紹介

話題の本『美術展の不都合な真実』はおすすめ?読むべき?自分に合う?

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ルーブル美術館でナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠を鑑賞する人々

2020年5月に刊行された『美術展の不都合な真実』は、美術ファンの間で大きな話題を呼びました。

美術展の企画に長年携わってきた著者・古賀太氏が、日本の美術館や美術展にまつわる課題をギュッと詰め込んだ本書は、私にも考える機会をたっぷりと与えてくれました。

マスコミ主催の大規模展は、果たして日本の美術界に豊かで幸福な成長をもたらしているのか?

それとも、貧弱で薄っぺらいイベントに過ぎないだろうのか。

あおり気味のタイトルはやや胡散臭い印象を与えますが、中身は至極真っ当で真面目な批評です。

美術館によく行く方はもちろん、最近初めて行ったよ!という方にとっても一読の価値がある内容です。

この記事では、読もうかどうしようか迷っている方に向けて本書をご紹介しています。

参考にしていただければ幸いです。

この記事の内容は読もうか迷っている方に向けた本の紹介です。
私自身の意見の主張、内容のネタバレは目的ではありません。

『ルーブル美術館でナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠を鑑賞する人々』
ルイ=レオポルド・ボワイー
1810年 メトロポリタン美術館所蔵 61.6×82.6cm

向いている人、向かない人

どれほどの良書でも、向いている人と向いていない人が存在しますよね。

まずは本書について、それぞれどんな人が当てはまるのかを初めにざっくりとお伝えしておきます。

向いている人

  • 美術館や文化事業のあるべき姿について考えるきっかけがほしい
  • 美術展は好きだけれど、大規模展のすし詰め状態はどうかと思っている
  • 最近よく美術展に行くようになったので、舞台裏に興味がある

向いていない人

  • 美術展はあまり深く考えすぎずに楽しみたい
  • 娯楽として、スキャンダラスな暴露本が読みたい

「不都合な真実」という刺激的なタイトルで、確かに業界関係者にとっては耳の痛い部分もありそうなものの、至って真っ当な指摘をしている本です。

美術館の現状やあるべき姿を真面目に考えたい人に向いています。

美術や美術館についての特段の予備知識は必要ありません。

学芸員を展示室で監視している人のことだと思っていても大丈夫です。
むしろそういう人にも読んでほしいくらいです。

著者はどんな人?

著者の古賀 太(こが ふとし)氏は、国際交流基金と朝日新聞社にて主に展覧会関連の仕事に携わった経験を持つ方です。

国際交流基金では展覧会担当として、海外の美術館で日本に関する展示を行う際の調整等を。
朝日新聞社では文化事業の部門にて、展覧会の企画役を長年務めてきました。

新聞社は展覧会の主催者として、開催する美術館の学芸員や展示作品の所蔵者、広告業者等と調整する立場にあります。

まさに、展覧会の裏側を知り尽くした人物。
本書では、一般の人手は知ることができない“不都合な真実”を、極めて具体的に明らかにしています。

本書のポイント

では、本書を読むとどんな良いことがあるのかを、3つのポイントに絞ってご紹介しますね。

ポイントは下記の3つです。

  • 日本の美術館の全体像がつかめる
  • 美術展開催の裏側が分かる
  • 美術館のあるべき姿を考えるきっかけになる

日本の美術館の全体像がつかめる

そもそも「美術館」とはどんな場所なのか
本書を読むとこれが理解できます。

美術や博物館にある程度詳しい方は、
「美術館は作品を収蔵・保存し、研究や教育に役立てたりする場所」
と答えるでしょう。

あまり関心を持ってこなかった方にとっては
「展覧会を開く場所」
なのかもしれません。

海外の美術館(ミュージアム)は前者であることが一般的ですが、実は日本の美術館の中には後者も存在するのです。

例えば、六本木にある国立新美術館。
美術作品のコレクションを持っておらず、美術団体やマスコミによる展覧会の会場としての役割が大きい美術館です。

本書では、日本になぜこのようなイレギュラーな美術館ができたのか等、日本の美術館がどのような場所なのかを、設立の歴史も踏まえながら解説しています。

「美術館とはそもそも何か」という、簡単なようで意外と知らないテーマについて、正確に把握できるようになります。

美術展開催の裏側が分かる

日本の美術館、特に大規模な館にとって、展覧会の開催は大きな事業のひとつです。

ですが、その展覧会がどんな人々の手によってどんなプロセスを経て開かれているのかは、あまり広く知られていません。

もちろん展覧会によって違うのですが、本書では主に、新聞社やテレビ局が主催する大規模展を取り上げています。

朝日新聞社で長年展覧会に携わってきた著者だけあって、具体的な数字や生々しい事情といったリアルな世界を見せてくれます。

とりわけ読み応えがあるのがお金の話。

  • どうして展覧会はあんなにも混雑するのか?
  • たくさんの作品を借りてくるのに一体いくらかかっているのか?
  • 宣伝費も高そうだがグッズも売れていそうだし、果たして儲かるものなのか?

などなど、誰もが一度は抱くであろう疑問の答えを明らかにしています。

個人的に衝撃だったのは、海外の美術館から作品を借りてくるのにお金を支払う一方で、日本の作品を貸し出す際にもお金を支払っているという事実です。

借りるのにも貸すのにもお金を払うというのは、ちょっとおかしいのでは・・・と首をかしげてしまいました。

なかなかに残念な“不都合な真実”の詳細は、本書で確認してみてください。

美術館のあるべき姿を考えるきっかけになる

日本の美術館の現状や美術展にまつわる裏話を知ると、日本の美術館はこのままでもよいのかと否が応でも考えされられます。

  • 大規模展覧会が賑わう一方で常設展がガラガラなのは、健全なことなのか?
  • マスコミの宣伝に踊らされて、大混雑の中で作品の前を列になって通り過ぎるのが、美術鑑賞なのか?
  • そもそも、新聞社が展覧会を主催するというのは真っ当なことなのか?

著者による問題提起は、現状を知れば知るほど切実に感じられてきます。

一気に短期間でガラリと変えることはできない大きな課題ですが、美術に興味を持っているのであれば、頭の中に置いておくべき重要な事柄と言えるでしょう。

書籍概要

『美術展の不都合な真実』
古賀太 著
株式会社新潮社(新潮新書)
2020年5月20日初版

以上、最後までご覧いただきありがとうございました。

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