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【彫刻満喫】アントニオ・カノーヴァ『アモルの接吻で蘇るプシュケ』をじっくり鑑賞

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ルーヴル美術館に所蔵される彫刻の中でも、アントニオ・カノーヴァによる《アモルの接吻で蘇るプシュケ》の甘美さは際立っています。

滑らかで白い大理石に繊細に彫られた美しい恋人たちは、鑑賞者の視線をものともせずに、2人の世界に浸っています。

《アモルの接吻で蘇るプシュケ》(筆者撮影)
アントニオ・カノーヴァ
1793年 ルーヴル美術館 155×168cm

ところで、この作品は、一体どのような場面を表現しているのでしょうか。

何かの物語に基づいているのでしょうか。

この記事では、元となったアモルとプシュケに関する物語を踏まえながら、カノーヴァの彫刻作品を鑑賞していきます。

物語を知ると作品の味わいもぐっと深く感じられるようになりますよ。

アモルとプシュケの物語

『アモルの接吻で蘇るプシュケ』が題材にしているのは、ローマ神話の愛の神アモルと人間の女性プシュケの波瀾万丈な恋物語です。

ルキウス・アプレイウスによる2世紀の小説『変容』の中にアモルとプシュケについての物語が記述されており、カノーヴァはこれを元に彫刻作品を制作しました。

まずは『変容』のアモルとプシュケの物語をご紹介します。

登場人物

アモル

(部分)アモルの接吻で蘇るプシュケ
アモル

アモルは愛と美の女神ヴィーナスの息子です。

魔法の金の矢を持っており、この矢に当たった者は、直後に見たものが人であれ怪物であれ恋してしまうという恐ろしいもの。

この矢の魔法にはアモル自身でさえ翻弄されてしまいます。

プシュケ

(部分)アモルの接吻で蘇るプシュケ
プシュケ

プシュケはとある王の末娘で、類い希な美貌の持ち主でした。

この美貌がアモルの母ヴィーナスの嫉妬を買うことから物語は始まります。

ヴィーナス

ローマ神話の愛と美の女神で、アモルの母。

愛、といっても欲の混じった「愛欲」を司る神なので、浮気だ不倫だの色恋沙汰の数々を起こし、愛の喜びのみならず嫉妬も憎悪も与えるような、激しい存在です。

美しい上にヌードにできるため、作品に頻繁に登場します。

『アモルの接吻で蘇るプシュケ』にはいませんが、参考までに、サンドロ・ボッティチェリ作『ヴィーナスの誕生』を載せておきますね。

《ヴィーナスの誕生》
サンドロ・ボッティチェリ
1483年頃 ウフィッツィ美術館 172.5×278.5cm

中央の貝殻に乗った女性がヴィーナスです。

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『変容』に描かれる物語

アモルの恋

物語が始まるきっかけとなったのはヴィーナスの嫉妬です。

「プシュケはあまりに美しい!」という評判に我慢がならなくなったヴィーナスは、息子のアモルにある命令を下します。

「プシュケに矢を放ち、この世で最も醜い怪物と恋をさせるように。」

いたずら好きのアモルは、楽しそうな話が来たと喜んで命を受けました。

アモルは、怪物を目の前にしたプシュケを金の矢で射れば、プシュケは怪物に恋するようになりミッション完了、と目論みます。

しかしアモルは、なんとうっかり自分の矢で自身を傷つけてしまったのです。

傷を受けたすぐ後に目に入ったのは、あのプシュケ。

アモルはプシュケに恋してしまいました。

アモルの秘密

恋心抑えきれないアモルは、ヴィーナスの命に背くと知りつつ、プシュケを宮殿に連れて行きます。

そして、自分がアモルであると知られないよう、夜だけを共に過ごし姿をプシュケには見せない生活を始めます。

しかしプシュケは気になります。

毎夜訪れてくる彼は、暗闇の中で「私の姿を見てはいけない」と囁く。

けれど、果たして私は一体誰といるのだろう?

知りたくなるのは当然ですよね。

結局プシュケは堪えられず、ある夜、眠るアモルの顔にランプを近づけ見てしまうのでした。

気づいたアモルは約束を破られたショックで、宮殿から飛び去ってしまいました。

この時、驚いたプシュケがランプを落としたために、アモルは火傷を負いました。

ヴィーナスの試練

息子アモルのスキャンダルに激怒したのは、母ヴィーナスです。

怒りの矛先はプシュケに向かい、龍の住む泉から水を汲んでこい、といった数々の試練を与えます。

プシュケはこの無理難題をなんとかこなしていきますが、遂には極めて困難な、冥府の女王プロセルピナに美を分けてもらうという試練を与えられます。

無茶も甚だしい試練でしたが、プシュケはこれもクリアし、プロセルピナから美の箱を受け取り地上に帰ります。

絶対にこの箱を開けないように、という指示と一緒に・・・。

地上へ帰ったプシュケですが、水面に映った自分の姿を見て、やつれきってしまったことを知ります。

美貌だったプシュケは絶望します。

「こんな姿の私を、アモルはもう愛してくれまい・・・」

プシュケは美の箱を開き、永遠の眠りにつきました。

眠りから覚めるには、アモルのキスが必要です。

黄金の箱を開けるプシュケ
ジョン・W・ウォーターハウス
1904年 117×74cm

アモルのキス

火傷が癒えたアモルは母ヴィーナスの元を飛び出して、永遠の眠りについたプシュケの元にたどり着きます。

箱の中から出てきた冥界の眠りをかきあつめると、アモルはプシュケにキスをします。

プシュケは無事、目覚めました。

アモルは全知全能の神ゼウスを訪ね、今回の騒動の取りなしを求めます。

ゼウスは了承し、プシュケを神にし、ヴィーナスを説得してプシュケとアモルの結婚を認めさせました。

紆余曲折の末、やっとふたりは結ばれることとなりました。

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『アモルの接吻で蘇るプシュケ』鑑賞

ではアントニオ・カノーヴァの作品『アモルの接吻で蘇るプシュケ』を見てみましょう。

クライマックスの、アモルにキスをされたプシュケが目覚めたシーンであることが分かりますね。

2人の顔が少しだけ離れ、プシュケの腕がアモルに伸びています。

キスをされ目覚めたプシュケが、まだぼんやりとした視界にアモルを見つけ、ゆっくりと手を伸ばす。

苦難を乗り越え、物語がハッピーエンドに向かい始める転換点です。

柔らかく微笑むアモルの表情は、ほっとしているようにも見えます。

自らの母から課された試練に苦しんだ末、永遠の眠りに落ちてしまった愛しいプシュケ。

蘇った瞬間は嬉しくもあり、安心もし、愛おしさがあふれたでしょう。

自分と関わったが故に散々な目に遭ってしまった申し訳なさもあったかもしれません。

滑らかに彫られた甘く優美なこの作品も、ストーリーを知るとプシュケの苦難の道のりが思い浮かび、悲喜交々の奥深い作品に感じられます。

アモル=クピドなら幼児姿でもよい?

さて。

今回登場したアモルは、クピドキューピッドとも呼ばれます。

美術史でクピドといえば、神話画の中を飛び回る裸の幼児が思い浮かびませんか?

例えばボッティチェリの『プリマヴェーラ(春)』

《プリマヴェーラ(春)》
サンドロ・ボッティチェリ
1482年頃 ウフィッツィ美術館 203×314cm

クピドが弓矢で女神を狙っています。

(部分)プリマヴェーラ(春)
クピド

ですが、カノーヴァの彫刻では、アモルはどう見ても幼児ではありません

青年、どんなに若くても少年くらいに見えます。

どういうことでしょう。

そもそも、古くはクピドは髭の生えたたくましい男性のイメージで描かれていました。

それが時が経つにつれて、若々しい青年、少年、幼児、と若返ったという経緯があります。

ですが、アモルとプシュケの物語を主題にした作品においては、青年くらいの年齢で描かれるのが一般的です。

幼児アモルと美女プシュケはアンバランスですし、以前はアモルも青年姿で描かれていた歴史を踏まえると不自然ではありません。

以上、『アモルの接吻で蘇るプシュケ』の鑑賞でした。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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