東京都美術館で開催中のエゴン・シーレ展へ行ってきました!
性と死の芳香に目眩を覚えつつ、圧巻の技巧に嘆息し、短くも波乱の生涯に打ち震え、時代の激動に息詰まらせる。
・・・というてんこもりの内容で、改めてシーレの魅力に気付かされた展覧会でした。
以下、「エゴン・シーレ展」の見どころや混雑状況、所要時間、チケット情報のまとめです。
まだ会期序盤ですが人気の予感がするので、お早めの訪問をおすすめします。
新型コロナ対策のため会期等が変更されている可能性があります
訪問前に必ず公式情報をご確認ください
展示構成
展示は14章に細かくテーマ分けされています。
シーレがメインの章は第1, 7, 8, 9, 12, 13, 14章で、全115点の出品作品のうち約50点を占めています。
60点以上はシーレ以外の手による作品なわけですが、シーレとの関連が丁寧に解説されているので、しっかり見ごたえが感じられます。
(シーレ以外の展示については「見どころ」で詳しくお伝えしますね。)
構成は以下の通りです。
- 第1章 エゴン・シーレ ウィーンが生んだ若き天才
- 第2章 ウィーン1900 グスタフ・クリムトとリングシュトラーセ
- 第3章 ウィーン分離派の結成
- 第4章 クリムトとウィーンの風景画
- 第5章 コロマン・モーザー 万能の芸術家
- 第6章 リヒャルト・ゲルストル 表現主義の先駆者
- 第7章 エゴン・シーレ アイデンティティーの探求
- 第8章 エゴン・シーレ 女性像
- 第9章 エゴン・シーレ 風景画
- 第10章 オスカー・ココシュカ “野生の王”
- 第11章 エゴン・シーレと新芸術集団の仲間たち
- 第12章 ウィーンのサロン文化とパトロン
- 第13章 エゴン・シーレ 裸体
- 第14章 エゴン・シーレ 新たな表現、早すぎる死
最後、5分半ほどの映像解説があります。
ここが見どころ!
まずは本展の見どころを3点に絞ってご紹介します。
(展示会場の写真等は載せていません。)
見どころの3点は以下の通りです。
- 秀逸かつ早熟!驚きの画力
- 上手いだけじゃない!表現内容も「大問題」
- シーレ周辺の人々、情勢も深掘りできる
それでは詳しくご紹介しますね。
秀逸かつ早熟!驚きの画力
画家に対して「絵が上手」と言うのは気が引けるものの、シーレを前にしては口にせずにはいられません。
本当に、画力が高いんです。
まず線がすごい。
鉛筆で紙に描いたドローイングが特に分かりやすいのですが、サーッと走った数少ない黒い線が、複雑怪奇な人間の姿勢を的確に表現しています。
そして色も美しい。
補色が上手く生かされ、人間の肌や特段のモティーフのない背景であっても思わず見入ってしまうくらい味わい深い色面になっています。
そしてそして、極めて高い画力を誇るシーレですが、驚愕はそれを身につけた年齢。
あまりに早熟なんですね。
母マリー・シーレによると、初めて絵を描いたのは1歳半の頃だったとか。
天才少年は制作に没頭し画力を磨き、16歳の時にはウィーン美術アカデミーに最年少で入学しています。
余談ですが、その翌年と翌々年にはアドルフ・ヒトラーが同アカデミーを受験し不合格を食らいました。
1歳年下のシーレが合格した一方で自らは2度も不合格という結果は、ヒトラーに大きなコンプレックスを与え、後年の「退廃芸術」弾圧の一因となったとも言われています。
話がそれました。
シーレの年齢を意識しながら鑑賞し、早熟さを実感するのは本展のひとつの楽しみ方でしょう。
展示室の壁面にシーレの年齢とその頃の状況が大きく書かれているので、作品と制作時期はリンクしやすくなっています。
また、1890年生まれなので、制作年の下二桁に10を足せばだいたいの年齢が計算できます。
「16歳でこれかー・・・」
と唸りながら巡るのは、シーレならではの面白さのひとつですね。
上手いだけじゃない!表現内容も「大問題」
シーレはとにかく画力が高いわけですが、その巧みな技で何を描くかも重要ですよね・・・笑
安心してください、表現された“中身”も、なんというか、充実、しています。
というか、ショッキングとも言えるこの“中身”の方が有名でしょうかね。
シーレの作品が纏うのは、エロスとタナトス(性と死)の濃密な香り、そして心臓を剣山で擦られるような鋭い痛みです。
例えば、裸婦のポーズのエロティックなこと。
なんだか見てはいけない場面を見ている気がして、目を逸らせたくなるほどです。
自画像にも痛々しいものが多くあります。
痩せ細った裸体や存在感のある局部は、穏やかな気持ちでは到底見られません。
身体そのものも衝撃的な姿ですが、そこに宿ったシーレの心の叫びも痛烈に響いてくるのです。
シーレの作風はあまりにも率直で刺激が強く、生前は批判も浴びせられました。
確かに「ここまでやらんでも」という意見は理解できます。
不穏な香りや痛みを伴う表現は好き嫌いが分かれるでしょうし、とりわけ児童の性的な表現は(当時は人気があったとはいえ)「芸術」の名の下に是としてよいのか悩ましくもあります。
ただ、単純に上手で刺激的なだけであれば、21世紀まで残っているはずがありません。
なぜシーレに惹かれるのか。
なぜシーレが美術史に残っているのか。
そんなことを自分なりに考えながら鑑賞するのも面白いのではないかと思います。
シーレ周辺の人々、情勢も深掘りできる
シーレという画家は波瀾万丈の人生を猛烈に駆け抜けた人物。
遺した作品は数多く、その上色々な意味で衝撃的。
シーレの生涯と作品を辿るだけでも満腹にはなれますが、彼の周辺もまた見ごたえがあります。
本展の見どころ3つ目はその「周辺」。
同時代の芸術家、芸術運動、社会情勢を理解することは、シーレをより深く鑑賞する手助けになります。
例えばグスタフ・クリムト、ウィーン分離派、新芸術集団、パトロンらは、シーレを語る上では欠かせない人々です。
ウィーンの街をぐるりと囲む環状道路(リングシュトラーセ)の開発、ヨーロッパ中を巻き込んだ大戦、数々の命を奪ったスペイン風邪の流行も重大なできごとですね。
このような人々・事柄にまつわる作品が展示され、シーレとの関係も分かりやすく解説されているのも、本展のポイントです。
1900前後の揺動するウィーンの様子も交えつつ、シーレを堪能してみてください。
混雑状況
会期序盤の平日午後に訪れた際は、ほどほどに混雑していると感じました。
オンライン予約の枠も当日券も残りわずかだったので、最も混んでいる状態に近かったと思われます。
ただ、入場のタイミングによってムラがあるようでした。
毎時00分に各枠の入場が始まるのですが、始まってしばらくの間は人の波がダーッと何度か押し寄せる感覚がありました。
枠は1時間と幅広くとられているので、できるだけ中途半端なタイミングで入場することをおすすめします。
なお、展示はやや混雑を感じやすいと思います。
大きくない作品が多く、どうしても近づいて鑑賞したくなるため、前の人を待ったり列に並んだりする場面がありました。
展示室や作品同士の間隔は広いので、展示方法に問題ありと言いたいわけではありませんが、元気な時に行った方が楽しみやすいかなと感じました。
混雑が気になる方は、入場のタイミングを調節したり、なるべく平日・会期序盤に訪問するのがおすすめです。
所要時間
展示の鑑賞にかかる時間の目安は概ね1時間~1時間30分くらいです。
音声ガイドを聞きながらじっくり見るなら1時間30分は確保した方がよいでしょう。
なお、ショップは品揃え豊富な上、私が行った時にはレジに行列ができていました。
グッズ好きの方は時間に余裕をもちましょう。
チケット・事前予約
チケットは日時指定券と当日券が用意されています。
日時指定券は公式チケットサイト(ART PASS)やプレイガイドで事前購入・日時指定予約をするタイプ。
コロナ禍で定着したおなじみのパターンですが、今回はプレイガイド上で日時指定予約まで完了できるのが嬉しいですね。
ただ、ART PASSとプレイガイドだったら、基本的にはART PASSの方がおすすめです。
というのも、
- ART PASSは2回まで日時変更できるが、プレイガイドだと不可
- プレイガイドだとコンビニで発券が必要
- プレイガイドだと手数料がかかる場合がある
と、ART PASSの方が柔軟で手続きが簡単なのです。
ただし、決済方法がクレジットカードに限られているので、それ以外で支払う場合はプレイガイドになります。
また、販売開始がART PASSは30日前からなのに対し、プレイガイドは3期に分けて設定されています。
最後の週末4月8,9日はギリギリART PASSより販売開始日が早いので、先にプレイガイドをチェックした方が安全かもしれません。
なお、会期序盤にもかかわらず、土日の午前中や当日を中心に、ART PASSでは数日前には売り切れる時間帯も出ている状態です。
行く日時が決められるのであれば、早めにチケットを確保しておくことをおすすめします。
ART PASS「エゴン・シーレ展」:https://art-ap.passes.jp/user/e/egonschiele2023
写真撮影・単眼鏡
写真撮影は9章のみ可能です。
9章はシーレの風景画が展示されたエリア。
現実の風景がシーレのフィルターを通り、位置関係や色形が組み変えられて画面上に現れます。
シーレの構成力が味わえる作品たちはぜひ写真に収めたいところ。
スマホやカメラを持ち込むのをお忘れなく!
単眼鏡は「あったら便利かな」という程度です。
色の混ざり具合やマチエールを拡大できるのは楽しいのですが、細密描写というわけではないので必須ではないかと。
※単眼鏡がほしいな~気になるな~という方はぜひこちらの記事をご覧ください↓
予習におすすめの書籍
シーレに関する書籍はたくさんありますが、「本展の予習にぴったり」という視点で1冊おすすめするのは『もっと知りたい 世紀末ウィーンの美術』。
今回も我が家の書棚にある本です。
なぜシーレに特化したものでないのかというと、本展は画家本人だけでなく、影響を与えた人物やウィーンの文化事情についての展示も充実しているから。
リングシュトラーセの大規模開発、フランス美術の影響などを抑えておくとグッと理解が深まるのです。
シーレ特集も12ページに渡ってありますし、本展の出品作品も複数(少なくとも11点は見つけました)掲載されています。
芸術が花開いた1900年前後のウィーンをよくまとめ上げている良書なので、予習にぴったりな上、手元にあると何かと便利ですよ。
『もっと知りたい 世紀末ウィーンの美術
――クリムト、シーレらが活躍した黄金と退廃の帝都』
千足伸行 著
2009年初版発行
株式会社東京美術
以上、最後までご覧いただきありがとうございました。
レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才
東京都美術館
2023年1月26日(木)~4月9日(日)
特設サイト:https://www.egonschiele2023.jp/
【巡回】
なし