SOMPO美術館で開催中の「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」に行ってきました。
結論から言うと、質・量ともに非常に充実していて、作品の美しさも、点数の多さも、体系的な構成も、どの要素も文句なし。
興味があるなら行かないと後悔するレベルのおすすめの企画展でした。
今回は川瀬巴水展について、気になる混雑状況や所要時間、見どころを詳しくレポします。
これから行こうか迷っている方、行こうとしている方のお役に立てれば嬉しい限りです。
新型コロナウイルス感染拡大状況によって、開館時間等が変更されている可能性があります
訪問前に必ず公式情報でご確認ください
そもそも○○とは?
ではまず、川瀬巴水展を楽しむための予備知識をさっくりさらっておきましょう。
川瀬巴水とは
川瀬巴水(1883~1957年)は、大正から昭和にかけて活躍した木版画家です。
日本や朝鮮など様々な土地を旅して写生し、それをもとに叙情豊かな風景木版画を制作しました。
次に解説しますが、新版画を確立した版画家の一人でもあります。
日本では北斎ほどの知名度はありませんが、海外ではかなりの有名人。
アップルコンピュータの共同創業者・スティーブ・ジョブズも収集しており、本企画展でもジョブズについて触れられています。
新版画とは
新版画とは、明治30年頃から昭和にかけて制作された木版画のジャンルのひとつで、当時廃れつつあった江戸時代の浮世絵の復興を目指しました。
ポイントは制作の分業。
浮世絵と同様に、図案を描く絵師、版木を彫る彫師、印刷する摺師、販売・プロデュースを手がける版元が力を合わせて制作に当たりました。
同時代には、図案作成も彫りも摺りも一人で行う創作版画も発展し、新版画vs創作版画の対立構造も存在しています。
対立の矢面に立たされた川瀬巴水は苦しい思いもしましたが、日本の伝統的な版画と、画家の意図の反映を重視する西洋的な創作版画の対比は、鑑賞者としては興味を惹かれるテーマではあります。
ここが見どころ!
では、本展の見どころを3点ご紹介します。
デビュー作から絶筆まで画業を網羅
木版画作家としてデビューした『塩原三部作』に始まり、『芝増上寺』などの有名作品を経て、絶筆『平泉金色堂』に至るまで。
川瀬巴水の画業を最初から最後まで通して鑑賞することができます。
そっくりそのまま画集にできるほどの、教科書レベルの体系的な展示と言えるでしょう。
新版画における風景画を担当し、国内外の様々な土地を旅しながら制作した川瀬巴水。
関東大震災や世界大戦、創作版画との論争といった困難に遭遇するも、新版画の世界を切り拓いていった様子を、充実の作品と解説で辿ることができます。
ドラマティックな映画のような波瀾万丈の生涯は、なかなかに胸熱です。
摺りが超絶良好
新版画の中心的存在である渡邊庄三郎が立ち上げた版元・渡邊版画店は、現在でも渡邊木版美術画舗として営業しています。
今回は特別協力ということで、大部分の作品が渡邊木版美術画舗から貸し出されています。
川瀬巴水と二人三脚で歩んできた版元だけあって、展示作品はどれも品質が秀逸です。
木版画でも、特に浮世絵版画の企画展でありがちなのが、状態のあまりよくない作品がかなり混じっているパターンです。
良くも悪くも大量に制作できてしまうので、摺の手数を省いたり、すり減った版木を使ったりと、本来の魅力を十分出せていない「本物」が存在してしまうのです。
その点、本企画展の作品は、ぼかしも美しく輪郭もくっきりとしていて、さすがの出来映えになっています。
木版画の味わいを存分に堪能できる企画展でした。
川瀬巴水でない2点も秀逸
川瀬巴水展なのでほぼ巴水の作品なのですが、2点明らかに別人物による作品が展示されています。
1点は橋口五葉の『髪梳ける女』。
川瀬巴水の作品を積極的に収集したスティーブ・ジョブズが購入した作品のひとつとして紹介されています。
髪の細かさ、構図の妙もさることながら、背景の雲母摺が見どころの作品です。
正面からだけでなく、目線を動かしながら見て、背景のきらめきを楽しみましょう。
2点目はゴッホの『ひまわり』です。
川瀬巴水には全く関係ありませんが、SOMPO美術館の所蔵品のため、企画展の最後に展示されるのがお約束になっています。
文脈をぶっ飛ばして唐突に突きつけられても惹き込まれてしまうので、ゴッホの力を再認識するコーナーとも言えるでしょう。
2020年5月に改装された際、展示ケースも新しくなり、今までよりもっと近づけるようになりました。
以前より大きく感じられるようになったので、久しく見ていない方も新鮮に楽しめるはずです。
展示構成
- 第1章 版画家・巴水、ふるさと東京と旅みやげ(関東大震災前)
- 第2章 「旅情詩人」巴水、名声の確立とスランプ(関東大震災後~戦中)
- 第3章 巴水、新境地を開拓、円熟期へ(戦中~戦後)
混雑状況
会期初め頃の週末昼過ぎに行きましたが、そこまで混雑はしていませんでした。
作品が掛かった壁面に1列できていて、詰まっているエリアもあるものの、隙間もある程度の混み具合でした。
前日に予約した際も、まだ定員には余裕がありました。
入場待ちもなし。
ただ、会期終盤の週末は気になるくらいの混雑になるかもしれません。
行きたい日時の予約枠が満員になる可能性も充分ありそうなので、なるべく早め、もしくは平日に行っておくことをおすすめします。
所要時間
美術館からは1時間以内の鑑賞をお願いされていますが、正直かなり駆け足でないと厳しいと思います。
それもそのはず、展示作品は前期だけでも191点にのぼるのです・・・
この点数、少なくとも1時間半、できれば2時間欲しいくらいの規模感です。
計算上1点につき20秒に抑えてやっと63分になりますが、どれもついゆっくり鑑賞したい名作ばかりなので、意識しなければ20秒は無理です。
(しかも映像コーナーあり!!)
強制的に退館させられるわけではないので、1時間で退館する方がどれだけいるのか疑問ですが・・・
ともかく、じっくり見る作品とサッと過ぎる作品のメリハリが必要な企画展でした。
チケット予約・当日券
オンラインでチケットが事前購入できます。
チケットが余っていれば当日窓口でも購入できますが、数に限りがある上、値段も少し高くなります。
(一般は200円、学生さんは100円窓口の方が高い)
キャンセルは入館当日の9:59まで可能なので、リスクも低め。
オンラインがおすすめです。
小学生以上であれば無料で入場する方もチケットが必要です。
こちらもオンラインで予約ができるので、事前に手続きしておくと安心です。
毎月15日正午に、翌月1ヶ月分の受付が開始されます。
支払はクレジットカードとd払いが使えます。
【12月15日追記】
12月15日、そろそろ会期末になる頃ですが、チケットのオンライン購入枠には余裕がある状態です。
直前でもオンライン購入できる可能性は充分あるので、安心してよさそうです。
当日券よりやや安く買えるので、たとえ当日であってもオンライン購入の方がおすすめです。
予習におすすめの書籍
今回も、実際に我が家の書棚にある書籍から選んでご紹介します。
川瀬巴水作品集
川瀬巴水について詳しく知りたいなら『川瀬巴水作品集』がおすすめです。
2013年の発行以来増刷を重ねてきましたが、2019年に巻頭グラビアを増補した改訂版が出されました。
『芝増上寺』や『馬込の月』を含む『東京二十景』を全点掲載するなど、川瀬巴水の主要作品が良好な印刷で楽しめるようになっています。
解説も詳しく体系的で、これにしておけば間違いはなかろうという書籍です。
すぐわかる 画家別 近代日本版画の見かた
川瀬巴水の活動した頃は、新版画とともに創作版画も発展した木版画が躍動した時代でした。
そんな時代の木版画の全体像を知るには『画家別 近代日本版画の見かた』がおすすめです。
画家ごとに章立てされており、代表作をフルカラーで見ながら、木版画の発展を学べます。
この時代の木版画の企画展は実はそれなりの頻度で開催されていて、そこまで注目されないのが残念ですが、でもでも個人的にはどれも面白いと思うのです。
本書を読んでおくとアンテナが広がるので、新版画・創作版画好きの筆者としては結構強くおすすめしたい1冊です。
開催概要
川瀬巴水 旅と郷愁の風景
SOMPO美術館
新型コロナウイルス感染拡大状況によって、開館時間等が変更されている可能性があります
訪問前に必ず公式情報でご確認ください
会期
2021年10月2日(土)~12月26日(日)
前期:10月2日(土)~11月14日(日)
後期:11月17日(水)~12月26日(日)
休館日
月曜日、11月16日(火)
開館時間
10:00~18:00
※入室は閉館時間の30分前まで
入館料
一般 1,300円(当日窓口1,500円)
大学生・専門学校生・大学院生 1,000円(当日窓口1,100円)
小中高校生 無料
- 身体障がい者手帳・療育手帳・精神障がい者保健福祉手帳持参で本人と介助者1名が無料
- 被爆者健康手帳持参で本人無料
アクセス
東京都新宿区西新宿1-26-1
- JR、東京メトロ新宿駅より徒歩約5分
- 東京メトロ西新宿駅より徒歩約6分
- 西武新宿線西部新宿駅より徒歩約7分
- 大江戸線都庁前駅より徒歩約7分
公式HP、SNS
ホームページ: https://www.sompo-museum.org/
展覧会ページ:https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2020/kawasehasui/
Twitter:@sompomuseum
Instagram:@sompo_museum
SOMPO美術館公式YouTubeで紹介動画を公開中
写真撮影
3フロアのうち1フロアは撮影できますが、2フロアは禁止されています。
撮影可能なのは、川瀬巴水の晩年の作品やゴッホのひまわりなどです。
以上、最後までご覧いただきありがとうございました。