こんにちは、美術関連の書籍を読むのが好きな美術ブロガー・岡本大福です。
今回の記事では、私が実際に愛用している書籍の中から「西洋美術史を勉強するのにおすすめの6冊」をご紹介します。
選んだ基準は下記3点です。
- 新刊が手に入る
- 特定の地域・年代・画家ではなく、西洋美術史を広く取り上げている
- 入門~初級レベル
どれも読了後の美術鑑賞を深めてくれる良書なので、自信を持っておすすめします。
気になったらぜひ手に取ってみてくださいね。
東京藝大で教わる西洋美術の見かた
基礎から身につく「大人の教養」 東京藝大で教わる西洋美術の見かた
佐藤直樹 著 株式会社世界文化社 2021年2月10日初版
東京藝術大学で教鞭を執る著者が、実際に藝大で開講している「美術史概説」の内容を書籍化した本書。
古代から現代までを満遍なく解説するのではなく、作品1点1点を丁寧に読み込んでいく内容になっています。
扱うのはルネサンス、ネーデルラント、ドイツなどの、重要かつまあまあ有名だけれど誰もが知っているわけではなさそうな作品たち。
一方で、日本で大人気の印象派は全く登場しません。
偏っています。
ただ、この偏ったラインナップが、美術史を学ぶ本質的な難しさと楽しさに関わっているのです。
美術史の世界はあまりにも広くて深く、歴史の全体像を掴もうとするとどうしても浅くならざるを得ません。
バロック美術=ダイナミックな感情表現が特徴
と言われても、分かったような分からないような・・・・・・
結局は、丁寧に読み解くテーマを増やし、個々のテーマという点と点を地道に結んでいくしかありません。
難しいけれど、楽しい。
それが美術史なのですよね。
本書も基本的には個々のテーマという点を増やす営みですが、点と点を結ぶ作業も行います。
例えば最終章では、序盤に登場した画家と関連付けることで、15世紀から20世紀へと美術が流れつながっていくのです。
美術をある程度楽しんだことのある人も、モナ・リザは知っているなぁ・・・という人も、美術の歴史を味わうことの本質に触れられます。
人を選ばずおすすめできる1冊です。
名画の読み方 世界のビジネスエリートが身につける教養
名画の読み方 世界のビジネスエリートが身につける教養
木村泰司 著 ダイヤモンド社 2018年10月24日初版
一時期やたら流行ったビジネスパーソン向け美術解説書の中でも、重要事項がかなりよくまとめられている良書をご紹介します。
「ビジネスエリートが身につける教養」とありますが、別にスティーブ・ジョブズもフィリップ・コトラーも出てこない、ごくごく普通の誰にでも楽しめる美術解説書です。
内容は、西洋美術にとって極めて重要な「画題(ジャンル)」が中心になっています。
「歴史画が最上位、次が肖像画、静物画は下位。ジャンルによって階級が違いますよ」という話に始まり、各ジャンルの絵画を鑑賞する上で役に立つ知識を詳しく解説しています。
扱う時代は、ジャンルによるヒエラルキーが確立していた19世紀前半頃まで。
現代美術には踏み込んでいません。
先述した「東京藝大で教わる西洋美術のみかた」が個々の作品の読み解きに重点を置いているのに対して、本書の方は一般的なルールの紹介になっています。
例えば、天使とクピドの違い、ギリシャ神話を題材にした絵画において登場人物を見分けるヒント(アトリビュートなど)や、風景画発展の経緯、というように、どの絵画を鑑賞する時にも使える普遍的な知識が解説されているのです。
基礎的なレベルの重要事項をしっかり説明しているので、本書を読めばその後の絵画鑑賞がかなり違ってくるはずです。
ビジネスパーソンに限らず、誰にでもおすすめできる1冊です。
絵を見る技術 ―名画の構造を読み解く
絵を見る技術 ―名画の構造を読み解く
秋田麻早子 著 株式会社朝日出版社 2019年5月2日初版
モティーフの意味や画家のエピソードに触れる機会は少なくない一方、構図や視線の動きといった視覚的アプローチに特化した解説は意外と少なかったりします。
とはいえ、絵画作品にとって造形の妙は欠くことのできない超重要ポイント。
目で見ただけで主役が理解できるようにし、リズム感や臨場感が伝わるようにするために、画家たちは明暗や配置などに工夫を重ねながら描いているのですから。
例えばフアン・サンチェス・コタンの『マルメロの実、キャベツ、メロン、胡瓜』という作品。
美しい静物画で、パッと見ただけでも何となく心地よさを感じますね。
その理由は
- 明暗によって強烈に主役が引き立っていること
- 図形の反復によりリズム感が出ていること
- 野菜が大きな円弧上に並んでいること
などによるのですが、さらによくよく観察すると、画面の手前と奥に視線が大きく揺さぶられる面白さに気づいてゆき、最終的には時の流れまでが表現されていることに驚くに至ります。
よく見ないと気づかないものの、実は非常に工夫が凝らされた作品なのです。
このトリックには唸らされました。
本書には、描かれているものの姿形をどのように観察していくかの道しるべが書かれています。
画家が表現したかった概念が理解できるようになり。
さらには、優しそう、リズミカル、どっしりしている、といった感覚的な第一印象を、どのような理由でそう感じ取ったのか論理的に説明できるようにもなります。
丁寧な解説で図版も多いので、決して難しくはありません。
学生時代のボンヤリとしていた自分に読ませてあげたくなった一冊です。
ちなみに、表紙はボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』が全面に印刷されてなんとも華やか。
紙質も凝っていて、手に取るだけでもごきげんになれます。
鑑賞のための西洋美術史入門
鑑賞のための西洋美術史入門
早坂優子 著 株式会社視覚デザイン研究所 2006年9月1日初版
2006年出版の、ギリシャ美術から現代美術までを通しで解説した入門書です。
そう新しくはないのですが、未だに書店でよく見かけるくらい息の長い名著です。
確かに使い勝手がよくて、私も学生時代からずっと愛用しているんですよね。
使いやすい理由は大きく3つ。
- 図版が多く、カラーで見やすい
- 解説が理解しやすい
- 俯瞰パートと深掘りパートのバランスがよい
まずは図版について。
美術史はとにかく作品を見ないと話が進まないものですが、本書には作品がしっかり載っています。
1ページの半分を占めるような大きな図版もあり。
一方で、小さくても伝わるものは小さくするかわりに点数を多くする、というようにメリハリがあります。
しかも全てカラーなのがありがたいですね。
そして解説。
入門者にも分かりやすいように、基本的な用語や、よく見る解説表現も丁寧に説明しています。
例えば「ピエタ」という画題。
あるいは、ドラクロワの解説でよく見る表現「激しい筆致と大胆な色彩」。
入門段階で「分かるようなピンと来ないような・・・」と感じがちな重要かつ基礎的な事項について、具体的に率直な表現で分かりやすく解説してくれるのがありがたいところです。
あとは、俯瞰パートと深掘りパートのバランス。
通史にありがちなのが、流れを重視するあまり具体性が乏しくなって頭に残らないという現象ですが、本書は「深掘りパート」のおかげで具体的なイメージを掴むことができるようになっています。
その時代の特徴や時代背景、代表的な画家・作品をざっくりと解説する「俯瞰パート」の後に、その時代を代表する画家を例にしながら詳しく解説する「深掘りパート」がしっかり確保されているのです。
抽象的すぎて分かりづらいことはないでしょう。
ということで、西洋美術史の全体像を学ぶにはもってこいの1冊です。
美術でめぐる西洋史年表
美術でめぐる西洋史年表
池上英洋・青野尚子 著 株式会社新星出版社 2021年5月5日
政治や経済などの社会情勢は美術に大きな影響を及ぼしていますよね。
美術史を勉強していると、歴史的背景ももっと勉強したい!と思うことがよくあるのではないでしょうか?
そんな美術ファンにとっておすすめなのが本書です。
政治・経済の歴史について、美術に関連付けながら、重要な事項を解説してくれています。
600万年前、人類の祖先が二足歩行により道具を利用するようになった頃から始まり、ローマ帝国の繁栄、ルネサンスの開花、産業革命、20世紀の世界大戦勃発・・・と辿っていき、冷戦が終結しグローバリゼーションが始まるまで。
西洋文明の発展を、順を追って網羅的に知ることができます。
取り上げる項目は絞っているものの、ひとつひとつを丁寧に解説してあるので、通史にありがちな「漠然としていて結局頭に残らない」問題は起こりづらくなっています。
また、印刷が非常によいのもワクワクさせてくれるポイントです。
フルカラーで、図版が鮮明な上紙面のレイアウトも整っていて、読んでいると楽しい気持ちになってきます。
カフェでゆったり読みたいイメージですね。
美術史と政治史などの橋渡しに特化した書籍はあまりないので、かなり貴重な存在です。
美術史の流れは入門レベルは頭に入っているくらいの、ライトな美術ファンにおすすめです。
なお、より詳しくよいところ・向かない人などをご紹介した記事がありますので、もっと知りたい方はこちらをどうぞ。